東北公済病院(とうほくこうさいびょういん) 国分町市民大学 健康講座 市民公開セミナー



睡眠時無呼吸と循環器疾患の意外な関係

〜いびきを治してあなたの心臓を守ろう〜


東北公済病院循環器内科部長 鈴木 秀

 睡眠時無呼吸症候群とは、夜間就寝中に呼吸が停止する症候群であり、現在その有病率は高く、21世紀の国民病とまで言われています。しかし、この症候群の歴史は意外に浅く、つい20年前の1993年になって初めて、一般的な疾患として周知されるようになりました。さらに、航空機事故やチェルノブイリ原発事故などの社会現象にも深く関与している事が知られるようになりました。


 日本国内の睡眠時無呼吸患者数は、200万人とも、300万人とも言われていますが、実際診断を受け治療されているのは、その10%から20%にすぎません。これほど医療情報が叛乱する世の中で診断が下されず無呼吸患者が放置されてしまうのはなぜでしょうか?これには、この疾患のいくつかの特殊性が関与しています。そもそも、"呼吸"が"止まる"のは、寝ている間の事なので、患者本人はなかなか気付きません。症状らしい症状は、日中の眠気であり、これは、夜間無呼吸のいわば影絵を見ているようなもので、必ずしも明確な症状が現れるとは限らず、人によって感じ方もまちまちです。昨日は疲れていたから、とか最近ストレスでよく寝られていないから、などと片付け、これが病気だとはなかなか思いません。このため、本人はなかなか病院へ足を運ばない訳です。その一方で、例えば患者さんの奥さん等、ベッドパートナーが"いびきがうるさい"、とか"いびきが収まったと思ったら呼吸も止まっていた"と指摘することこそ、この病気の発見に繋がります。また、本日の市民講座などを聞いて、自分自身が睡眠時無呼吸症候群ではないか、と疑い、検診、人間ドックを受けることも重要と考えられます。


 さて、睡眠時無呼吸症候群は、そもそもなぜ治療したくてはいけないのでしょうか?私たちは、呼吸をする事により、体の中に酸素を取り込み、その酸素があらゆる生命活動を可能にしています。ものを食べればそれを消化するのに酸素を必要としますし、歩行などの運動をする際にも酸素は必要です。睡眠時無呼吸症候群患者では、夜間断続的に呼吸が停止し、そのたびに体が低酸素にさらされる訳ですから、それが体に良い訳がありません。この低酸素がストレスとなり、交感神経の緊張を高め、高血圧、心房細動などの不整脈を引き起こします。実際睡眠時無呼吸患者では健常人と比較して、高血圧が2倍、心房細動等の不整脈は5倍あると言われています。さらには、これらが引き金となり、動脈硬化を進展させ、脳血管障害、心筋梗塞、夜間突然死等生命に関わる重篤な疾患を引き起こします。ちなみに心筋梗塞、脳血管障害も健常人の4倍発症すると言われています。このように就寝中の無呼吸は、動脈硬化疾患と深く関与しており、重症の睡眠時無呼吸症候群であることは、心筋梗塞、脳梗塞等の直接命に関わる病気、あるいは寝たきりに成ってしまうような重篤な病気の予備軍である、と考えられます。


 しかし、早く発見され、適切な治療を行えば、恐ろしい病気に成る事を予防できます。最近になって、重症の睡眠時無呼吸症候群でも、持続陽圧呼吸療法(CPAP)で治療すれば、心血管系の病気で死亡する率が健常人と変わりない事が解っています。繰り返しますが、睡眠時無呼吸は、寝ている間の事なので本人は気がつきにくいという側面があります。まずは、この病気の存在を知り、疑う事が大切です。そうして、病院を受診し検査を受け、適切な治療を受けて下さい。そうする事により、あなたの体を、脳卒中、心臓病等の恐ろしい病気から予防してください。