出血に対し、輸血は直接的かつ有効な治療法ですが、種々の合併症がみられることが最大の欠点であります。第一に、輸血を介する感染症として、古くはマラリア、梅毒が知られ、B型肝炎、C型肝炎などの輸血後肝炎、さらにHIV、成人T細胞白血病や未知のものを含めたその他のウィルス感染があります。第二に液性免疫に関するものとして、血液型(ABO)不適合、溶血、紫斑病などがあり、第三にTリンパ球が関与する免疫抑制反応として、致命率の高いGVHD(移植片対宿主病)や、悪性腫瘍の再発率上昇、感染症の誘発、といった問題も指摘されています。これらの合併症に対して、それぞれ対策が講じられ、今日の輸血は以前と比べればかなり安全なものになってきましたが、それでもなお完全とはいえません。また、「輸血の合併症を避ける最良の方法は、輸血をしないことである」とは言われていますが、輸血の遅れが致命傷となる愚は避けなければなりません。


私たちの施設では、輸血が予想される予定手術において、1989年の心臓血管外科を皮切りに、術前自己血貯血法による自己血輸血手術が開始され、今日では消化器外科、産科・婦人科、泌尿器科、整形外科など、輸血を必要とする手術を行う全ての科で自己血輸血手術を行っています。心臓血管外科では、その適応を体重14kg以上の幼児にまで広げ、小児例では98%、成人例では82%まで無輸血率を達成しました。無輸血手術では勿論のこと、輸血量削減の効果は目をみはるものがあり、1980年代に猛威をふるった輸血後肝炎は激減しました。輸血後肝炎のあるものは慢性肝炎、肝硬変、さらには肝臓癌へと進展することが知られ、今日社会問題となっています。目的の手術を終えればこれで治療が完結するのではなく、その後の患者さんの長い人生、QOLを考えれば、同種血輸血は極力回避すべきであり、自己血輸血法のさらなる適応拡大、技術向上への取り組みは、今後益々求められることと確信します。