乳がんの治療によって失われた乳房の形態を、手術によりできるだけ元の形に復元するのが乳房再建です。乳房を失うことによる影響は、人により様々です。たとえば、以下のように感じられることもあるでしょう。

  • 襟ぐりの大きな服が着られない。
  • 補正パッドや補正下着を身につけるのがわずらわしい。
  • 温泉に行けない。人前で着替えられない。
  • 乳房だけでなく、色々なものを失ったように感じてしまう。

これではせっかく乳がんを克服しても、元通りの生活とは言えません。このような気持ちになることは、年齢に関係なく女性としてごく普通のことなのです。失いかけていた普通の生活を取り戻したい、病気で我慢した分、これからの人生をより良く生きたい。乳房再建はその手助けとなるかもしれません。形成外科では当院乳腺外科と協力して、「乳房のある生活を取り戻すこと」を目標として治療に取り組んでいます。



当院では年間約150例の乳房再建手術を行っています。2012年には乳房治療・再建センターが開設され、乳腺外科と共同して治療に当たっています。


早期の乳がんであれば、乳房切除と同時に再建手術を開始することができます。通常は組織拡張器(エキスパンダー)というシリコン製の水風船のような医療器具を入れておき、数ヶ月かけて元の乳房と同程度の大きさまで膨らませた後に、シリコンインプラントか自家組織で再建します。


乳がんの治療が完了してからでも乳房再建はいつでもできます。放射線治療を受けた場合には組織拡張器やシリコンインプラントを用いた再建が困難となる場合がありますが、皮膚や脂肪を使った乳房再建が可能です。


2013年から保険適応となった方法です。乳がんの手術の時の傷を利用して、組織拡張器をシリコンインプラントに入れ替えるので、体の他の部分に傷がつきません。体の負担が少ないため入院期間が短く、通常の生活や仕事に早く復帰できるなどの利点があります。

シリコンインプラントの短所として、劣化により中のシリコンが漏れ出る可能性や、変形を生じたりする可能性があります。このような場合には、シリコンインプラントの入れ替えを行う必要があります。

また、2019年に、それまで使用されていたシリコンインプラント周囲にまれに悪性リンパ腫を生じる可能性があるとして、シリコンインプラントが使用中止となりました。現在は、悪性リンパ腫が生じにくいシリコンインプラントが新たに認可され使用されています。


患者さん自身の皮膚や皮下脂肪の豊富な部分を胸に移動してふくらみを作る方法です。自分の組織を使用するため、組織を採取した部位に傷が生じます。シリコンインプラントでは再現できない胸元や、自然な柔らかさのある乳房を作ることができるという利点がありますが、シリコンインプラントに比べると体の負担が大きく、手術時間や入院期間が長くなります。

これには主に次の3つの方法があります。


●腹部皮弁(下腹部の皮膚・皮下脂肪を用いる方法)

臍から下の下腹部の組織を血管吻合を行って胸に移動し乳房のふくらみを作ります。吻合した血管が詰まって組織が壊死する可能性がありますがまれです。使える皮膚や組織量が豊富にあるので、一般的に大きい乳房の再建に使用されます。

この方法は一般的に腹直筋皮弁とも呼ばれ、腹筋の一部を採取するため筋力が弱くなり緩む可能性があります。このような合併症が生じにくくなるよう、当院では腹直筋を全く採取しない深下腹壁動脈穿通枝皮弁(DIEP皮弁)や、浅下腹壁動脈皮弁(SIEA皮弁)という改良された手術方法により乳房再建を行っています。


●広背筋皮弁(背中の皮膚・皮下脂肪を用いる方法)

背中にある広背筋という大きく広がる筋肉と周囲の脂肪組織を、血管がつながったまま移動して乳房のふくらみを作ります。広い欠損範囲を再建できる利点がありますが、背中の組織量は限られるため小さめの乳房を作るのに適しています。広背筋は主に脇を締めるときに働く筋肉の一つですが、他の筋肉が補助するので支障が出ることは少ないとされています。


●大腿皮弁(太もも内側の皮膚・皮下脂肪を用いる方法)

大腿内側の組織を血管吻合を行って胸に移動し乳房のふくらみを作ります。吻合した血管が詰まって組織が壊死する可能性がありますがまれです。採取できる組織量が限られるので、小さめの乳房を作るのに適しています。この方法は大腿深動脈穿通枝皮弁とも呼ばれ、筋肉を採取しないため比較的体の負担が比較的少ないなどの利点があり、近年注目を集めています。


乳房の再建後、腫れが収まり形や位置が落ち着いてから乳輪や乳頭をつくることが可能になります。

乳輪再建の方法には、医療用のタトゥー(入れ墨)や、皮膚移植などがあります。

乳頭再建には、反対側の乳頭を半分移植する方法(乳頭移植)や、皮膚を折りたたんで作る方法(局所皮弁)などで乳頭をつくります。

いずれも局所麻酔で行いますので入院の必要がありません。

このほか、温泉に行くときなどの機会にのみ、シリコン製の人工乳輪乳頭を胸に貼る方法などがあります。


保険適応:乳房再建(シリコンインプラント、自家組織再建)、乳頭再建

自費診療:医療用タトゥーを用いた乳輪再建